現行法上適法なセックスワークとは

日本の性産業を規律する法的枠組みは、売防法と風営法が織りなす「ガラパゴス的法体系」といわれる二重構造が特徴である。売防法が売買春の禁止と予防を目的とする法律であるのに対し、風営法は警察(都道府県公安委員会)への届出等を前提として、一定の性的サービスを提供する事業を「性風俗関連特殊営業」として包摂し、適法な営業として規制している。
園田寿 2026.10.17
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はじめに

日本の現在の法体系において風営法が一定のルールの下で営業を認め、適法なものとして位置づけているセックスワーク(性的サービスの提供)は、主として同法第4章第1節における「性風俗関連特殊営業」に該当する諸業態である。

1.法体系の前提:売春防止法との峻別

日本の性産業を理解する上で不可欠な前提は、売春防止法(売防法)と風営法における「ガラパゴス的」とも称される二重構造である。

〇 売防法による「性交」の禁止

売防法第3条は売買春を禁止しているが、同法第2条における「売春」の定義は「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交をすること」と規定されている。そして過去の判例や通説によると、ここでいう「性交」とは「男女間の膣性交」(いわゆる本番行為)に限定して解釈されてきた。

〇 風営法による「性交類似行為」等の包摂

したがって、膣性交に至らない性的サービス(手淫、口唇を用いた性交類似行為、各種の身体接触・マッサージ等)は、売防法が禁じる「売春」には該当しない。性風俗事業者は「本番行為さえ行わなければ違法ではない」という解釈のもとで多様な非本番的サービスが開発され、これらが風営法の「性風俗関連特殊営業」の管轄下に置かれることとなった。

なお、風営法が性風俗関連特殊営業に対してとっている規制手法は、通常の風俗営業(キャバレーやパチンコ店等)に適用される「許可制」ではなく、「届出制」であることに注意を要する。これは、「性を売り物にする営業は本質的に不健全であり、公に認可・公認(ライセンス化)することは善良の風俗上なじまない」という立法意図に基づくものであり、実態把握と立地・営業時間の制限、さらに違反時の行政処分(営業停止等)を目的としている。したがって、事業者が警察(都道府県公安委員会)へ適法に届出を行い、禁止地域外での営業や未成年者の立ち入り禁止などの法的な遵守事項を守っている限り、行政法上「適法(合法)」な営業として運営することが認められているのである。

2.風営法が認めている主なセックスワークの類型

では、具体的に風営法第4章第1節以下に基づき、届出等を経て適法に営まれているセックスワークには、どのようなものがあるのか。

(1)店舗型性風俗特殊営業(法第2条6項)

店舗を構えて性的サービスを提供する業態であり、以下の区分が存在する。

● 1号営業:個室付浴場業(いわゆるソープランド)

公衆浴場法の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業である。

法的建前と実態の乖離:法文上の定義は入浴と身体接触であるが、実態としては性交(本番)サービスが定着しているといわれている。しかし、店舗が性交を指示・周旋しているのではなく、「密室で従業員と客が自由恋愛に基づき合意の上で行った私的行為である」という建前(擬制)をとることによって、売防法違反(場所提供罪や周旋罪)としての摘発を免れ、風営法上の届出営業として事実上営まれている。

● 2号営業:店舗型ファッションヘルス営業(いわゆるヘルス、個室マッサージ、性感マッサージ、SMクラブ等)

個室を設け、異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(1号を除く)である。個室内でディープキス、フェラチオ、手淫、マッサージ等の非挿入系サービスが提供される。

● 3号営業:ストリップ劇場、ヌードスタジオ、のぞき部屋等

興行場において、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行を営む営業である。

● 4号営業:ラブホテル、モーテル等

専ら異性を同伴する客の宿泊・休憩の用に供する施設を提供する営業である。

● 5号営業:アダルトショップ等

性的好奇心をそそる写真、ビデオテープ、性具等の物品を販売・貸し付ける営業である。

● 6号営業:1号~5号以外で政令で定めるもの(出会い系喫茶等)

店舗内において、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための交際(会話等)を取り次ぐ営業である。

(2)無店舗型性風俗特殊営業(法第2条7項)

店舗を持たず、客の依頼に応じてサービス従事者を派遣する形態であり、1998(平成10)年の法改正によって新設された。

● 1号営業:派遣型ファッションヘルス(いわゆるデリバリーヘルス/デリヘル)

客の自宅や宿泊施設(ホテル等)に女性を派遣し、性的好奇心に応じて接触する役務(非本番の性的サービス)を提供する営業である。

店舗型の出店規制が強化されたことや、スマートフォンの普及に伴い、現在では警察への届出数が約2万件に達し、市場規模が1兆円を超えるなど、現代日本の性風俗産業における最大の主流業態となっている。

● 2号営業:アダルト物品・ビデオ等の通信販売営業

客の依頼を受けてアダルトビデオや性具等の物品を配達・販売する営業である。

(3)映像送信型性風俗特殊営業(法第2条8項)

インターネット等の電気通信設備を用いて、性的な行為を表す場面や衣服を脱いだ人の姿態の映像を客に見せる営業(アダルト動画配信、ライブチャット等)である。

(4)電話異性紹介営業(法第2条9項・10項)

いわゆるテレホンクラブ(テレクラ)やツーショットダイヤルなど、面識のない異性との会話の機会を提供する営業である(店舗型・無店舗型の区分がある)。

3.接待飲食等営業(狭義の「風俗営業」)との境界

なお、キャバクラ、クラブ、ホストクラブ、ニューハーフバーといった接客を伴う飲食店は、風営法第2条第1項の「風俗営業(1号営業:接待飲食等営業)」に分類され、こちらは公安委員会の「許可」を受けて営業が行われている。

これらの営業で認められている役務は、あくまで「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなす(接待)」ことであり、性的な身体接触や性交類似行為の提供は法的に認められていない。したがって、狭義のセックスワーク(性風俗)とは法的な種別が明確に区別されている。

4.総括:法制度に内在する矛盾

以上のように、風営法において法的に位置づけられ、実質的に認められているセックスワークは、「膣性交(本番)を行わない性交類似行為・性的接触役務」を基本とする性風俗関連特殊営業(デリバリーヘルス、ファッションヘルス等)、ならびに「個室付浴場業」という枠組みと自由恋愛の建前を通じて事実上存続しているソープランドである。

しかしながら、この法構造は「届出制によって警察の管理下に置き、営業を適法として認めながらも、道徳的観点から通常の労働や健全な産業としては公認しない」という極めて不安定な妥協の上に成り立っている。その結果、現場で働くセックスワーカーが労働者としての権利や公的支援から排除されやすいという構造的課題(職業差別の温存)が、現在も法的および社会政策上の重要な論点となっている。(了)

【参考文献】

  • 辻義之監修・大塚尚著『注釈風俗営業法』、有斐閣、2022年。

  • 吉田一哉『逐条解説 風営適正化法』、東京法令出版、2019年。

  • 警察庁『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について(通達)』、警察庁生活安全局、2018年。

  • 大塚尚『風俗営業法判例集〔改訂版〕』、立花書房、2015年。

  • 風俗問題研究会『最新 風営適正化法ハンドブック【全訂第3版】』、立花書房、2011年。

  • 豊田健・仲家暢彦『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』(注解特別刑法7/風俗・軽犯罪編〔第2版〕)、青林書院、1992年。

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