「商品としての薬物」から「禁圧すべき悪」への変質

「商品としての薬物」が「禁圧すべき悪」へと変質した過程には、科学的な発見の歴史というよりも、近代的国家がいかにして「正常な市民」の境界を画定し、そこから逸脱する者を管理・排除しようとしてきたかという統治の変遷がある。今日、非犯罪化の議論が再燃しているのは、一世紀以上にわたる「悪との戦い」(War on Drugs)がもたらした構造的疲弊への反省である。
園田寿 2025.12.26
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紀元前1000年頃のマヤ美術が描く「タバコの葉を吸うひと」。英語の「シガー」(cigar)という言葉は、マヤ語の「シカール」(sikar)に由来し、「タバコの葉を吸う」という意味。

紀元前1000年頃のマヤ美術が描く「タバコの葉を吸うひと」。英語の「シガー」(cigar)という言葉は、マヤ語の「シカール」(sikar)に由来し、「タバコの葉を吸う」という意味。

はじめに

今日、特定の精神作用物質は「薬物(ドラッグ)」と呼ばれているが、そこには単なる薬理的特性を超えた道徳的・政治的な意味が込められている。歴史を遡れば、19世紀末までの西欧社会および東アジアでは、アヘンやコカ、大麻といった物質は、医療や儀式、あるいは日常的な嗜好品として自由に流通する「商品」であった。しかし、20世紀を通じてこれらの物質は「社会に対する深刻な悪(serious evil)」として再定義され、国家権力による物理的な強制力を伴う抑制から禁圧の対象へと変質を遂げた。

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