アメリカ薬物政策の歴史的転換―大麻が「危険な薬物」から「管理された医薬品へ」―

トランプ大統領はマリファナ(大麻)の法的地位に関し、規制物質法(CSA)上のスケジュールⅠからスケジュールⅢへと緩和する大統領令に署名した(2025年12月18日)。1970年以来、ヘロインやLSDと同等の「乱用の可能性が高く、医療的価値のない」危険な薬物として扱われてきた大麻にとって、この再分類はアメリカの薬物政策の歴史的な転換点である。この政策転換の意義と影響をQ&A形式でまとめてみた。
園田寿 2025.12.20
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ホワイトハウス

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Q1 トランプ大統領の目的は?

大統領は、今回の政策変更が「嗜好用大麻の合法化」を意味するものではないと繰り返し強調している。今回の再分類は、「科学」「人道」「経済」「政治」の4つの面から評価することができる。

1. 医療研究の停滞を打破する「科学的な開放」

トランプ氏は署名式において、再分類の最大の利点として「大麻関連の医学研究が劇的に容易になること」を挙げた。1970年以来、大麻は「医療的価値がなく、乱用の可能性が高い」とされるスケジュールⅠに分類されてきたが、これが科学的研究の大きな障壁となっていた。スケジュールⅢへの移行により、その効能、潜在的な危険性、そして将来的な治療法についてより自由に、かつ厳密な臨床研究を行えるようになる。政府はこれを、科学的証拠に基づいた「コモンセンス(常識)」に基づく政策への転換と位置づけている。

2. 患者へのアクセス拡大とオピオイド危機への対抗

深刻な痛みに苦しむ患者、特にがん患者や高齢者への治療の選択肢が広がる。大統領は、大麻が「依存性が高く致死的な可能性があるオピオイド鎮痛剤」(フェンタニル危機)に代わる、より安全な代替手段となり得ることを強調した。

3. 経済的合理性と税制・金融の「正常化」

大麻産業にビジネスとしての「正当性」を付与することも大きな目的の一つである。スケジュールⅠおよびⅡの物質を扱う企業は、IRS(内国歳入庁)コード280Eにより、標準的な営業経費の税控除が認められず、実効税率が最大80%に達することもあった。

スケジュールⅢへの移行は、この「過酷な罰則的税制」を撤廃し、法を遵守している大麻関連企業が他業界と同様に利益を再投資し、雇用を創出できる環境を整えることを意図している。

4. 政治的思惑と「中道・若年層」へのアピール

今回の決断には、2026年の中間選挙を見据えた政治的な思惑もあるといわれている。大麻規制の緩和は、若年層や黒人、ヒスパニックといったマイノリティから強い支持を得ている政策である。

Q2 大麻はどのような薬物と同等になったのか?

規制物質法(CSA)におけるスケジュールⅢには、以下のような物質が含まれている。

  • ケタミン 麻酔薬として知られる薬物である。

  • 同化ステロイド(アナボリックステロイド) 筋肉増強などに用いられるステロイド製剤が含まれる。

  • テストステロン 男性ホルモン製剤もこのカテゴリーに属する。

  • コデイン配合製品 1回当たりの服用量に含まれるコデインが90ミリグラム未満の製品(例:タイレノール・ウィズ・コデイン)が該当する。

今回の再分類によって、大麻はこれら既存のスケジュールⅢ薬物と同様の法的地位を得ることになる。これは、医師による処方が実務的に可能になることや、これまでスケジュールⅠという極めて厳しい規制下では困難であった医学的研究が大幅に促進されることを意味している。つまり、アメリカの薬物政策における歴史的な転換点である。

Q3 スケジュールⅢへの移行は、医療研究の進展や患者のアクセスにどのような影響を与えるか?

今回の再分類がもたらす最大の恩恵の一つは、厳格な分類によって長年停滞していた大麻関連の医療研究が劇的に容易になることである。

厳格な規制が緩和されることで、今後大麻研究に数十億ドル規模の研究資金へのアクセスが可能になり、臨床研究の道が拓かれ、製品の革新や新たな治療法の発見が期待される。

また、連邦政府が医療価値を認めることで、大麻に関する品質管理システムが強化され、サプライチェーンを政府の規制に適応させる契機となる。今回の措置は、多くの州ですでに機能している規制の現実と連邦政策を一致させる歴史的な一歩であると評価されている。

さらに、患者アクセスへの主な影響としては、以下のようなものが考えられる。

第一に、大麻がケタミンやコデインなどと同様の扱いとなり、「依存性が高く致死的な可能性があるオピオイド鎮痛剤」(フェンタニル危機)に代わる、より低リスクな選択肢として公に認められることになる。

第二に、高齢者を中心としたCBD製品の利用者に対し、Medicare(高齢者向け公的医療保険)を通じた還付が認められたことで、2026年4月以降、特定の個人には年間最大500ドルの補助が提供される可能性がある。

ただし、この再分類後も大麻は依然として連邦法上の「規制薬物」であることは間違いない。アメリカ食品医薬局(FDA)の承認を得ないままスケジュールⅢの薬物を販売し続けることの法的矛盾も指摘されている。スケジュール変更が医療研究を活性化させ、患者への福音となることは間違いないが、さらなる法整備と議論の継続が不可欠である。

Q4 大麻の再分類によって企業にはどのような税制上の利点があるか?

アメリカ国内の大麻産業には、「懲罰的」とも言える税制の壁があった。今回の再分類によって、米国内国歳入庁(IRS)の規定である280E条の適用除外とされるが、これがもたらす経済的恩恵は極めて甚大である。

IRS 280E条の制限とは、スケジュールⅠまたはⅡの規制物質を扱う企業に対し、通常のビジネスであれば当然認められる「標準的な営業経費(販売費および一般管理費)」の税控除を一切認めないというものである。スケジュールⅢへの移行が完了すれば、企業は事業継続に必要なあらゆる経費が控除の対象となる。

IRS 280E条の適用下では、大麻企業の実効税率は最大で80%に達することも珍しくなかったが、この足かせが外れることで、これまで「赤字」とされていた事業が「黒字」へと転換する可能性が高い。

また、大麻産業が「正当なビジネス」へと昇格することになる。税制上の公平性が確保されることで、米国内の大麻市場はかつてない健全な成長フェーズに入ることが期待される。

Q5 完全な合法化に進まなかったのはなぜか?

大麻のスケジュールⅢへの移行は、半世紀以上にわたる厳格な規制を緩和する歴史的な一歩であるが、これが連邦レベルでの「完全な合法化」や「非犯罪化」を意味するものではない点には注意が必要だ。大統領令の署名後も、連邦法の枠組みにおいては、大麻は原則的に禁止されている。

今回の再分類の根幹は、あくまで大麻に「医療的価値」を認める点にある。したがって、医療目的以外での利用については、連邦法上の扱いは変わらない。

トランプ大統領自身が署名式で強調したのは、今回の措置が「娯楽目的の使用を容認するものではない」ことである。連邦レベルでは、大麻の非医療的使用や医師の処方によらない販売と流通は依然として違法であり続ける。したがって、非医療目的での大麻の生産や使用は、引き続き連邦法上の犯罪としては残る。

スケジュールⅢに分類される物質は、ケタミンやコデイン配合製品と同様に、法的に管理された「医薬品」としての扱いを受ける。そのため、正規のルートを外れた流通は厳しく罰せられる。

現在、州が大麻を独自に合法化しているが、それらはあくまでも各州内に閉じた市場でのことである。連邦レベルでの再分類が行われても、この構造が直ちに解消されるわけではない。州の境界を越えて大麻を輸送・販売する「州間商取引」は、依然として連邦法で制限されている。

Q6 一部の共和党議員は再分類に反対しているが?

今回の再分類はおおむね各方面から歓迎されているが、慎重論や反対の声が存在することも事実である。共和党内の一部議員らは、公衆衛生、治安維持、そして財政的合理性などの点からの懸念が表明されている。

最も危惧されているのは、連邦レベルでの規制緩和が青少年に誤ったメッセージを送り、薬物乱用を助長することである。一部の議員グループは大統領に対し、この決定が若年層に「大麻は安全である」という誤解を広める可能性があると書簡で訴えた。特に、フェンタニルによる深刻な薬物危機の中で、さらなる依存性物質の規制を緩めることは、火に油を注ぐ行為に等しいと批判する。

再分類の大きな目的の一つである「医療研究の促進」に対しても、「大麻にさらなる研究が必要だとは誰も信じていない」「既存のデータで十分である」といった冷ややかな意見もある。

つまり、大麻を「社会を蝕む麻薬」と捉える古くからの考えはまだ相当根強いといえる。

Q7 スケジュールⅢの薬物に関する罰則は?

再分類は大麻の「合法化」ではなく、あくまで「医薬品としての管理」への移行であり、この枠組みを逸脱する違法な使用や販売に対しては、依然として厳しい罰則が科される。

再分類は、大麻をケタミンやコデインなど同様に、高度に構造化された医療システムの中での「厳格な管理」に置かれるのである。この新しい「医薬品としてのルール」に従わない場合には刑罰が科せられる。つまり再分類は、自由の拡大であると同時に、法による監視の精緻化ともいえるのである。

罰則の種類と程度は、以下のとおりである。

有効な処方箋を持たずに個人使用的でスケジュールⅢ物質を所持する「単純所持」については、連邦法21 U.S.C. § 844に基づき、累犯性を重視した罰則が科される。

  • 第一犯(初犯)
    最高1年の自由刑、および最低1,000ドルの罰金

  • 第二犯
    確定した過去の薬物犯罪歴が1回ある場合、15日以上2年以下の自由刑、および最低2,500ドルの罰金。

  • 第三犯以降
    過去に2回以上の薬物犯罪歴がある場合、90日以上3年以下の自由刑、および最低5,000ドルの罰金が科される。また、裁判所は被告に支払能力がないと判断した場合を除き、捜査や起訴に要した合理的な費用の負担を命じる義務を負っている。

不法な製造、配布、または配布目的の所持は、連邦法21 U.S.C. § 841の下で厳格に処罰される。スケジュールⅢの物質に関連する違反行為は重罪とみなされ、その犯罪歴に応じて段階的に加重される仕組みである。

  • 標準的な罰則(初犯)
    過去に重大な薬物犯罪歴がない個人が不法流通を行った場合、最高10年の自由刑が科される。また、個人には最大50万ドル、組織には最大250万ドルの罰金が併科される可能性がある。刑期終了後も、最低2年間の「監視付き釈放(Supervised Release)」が義務である。

  • 再犯による加重
    すでに「重大な薬物重罪」等の確定判決を受けた後に再び違反を犯した場合、最高20年の自由刑、罰金は個人で最大100万ドル(組織では最大500万ドル)へと倍増する。

  • 死亡または重大な身体的傷害が生じた場合
    不法配布された薬物の使用により、結果として使用者が死亡、あるいは重大な身体的傷害を負った場合、法的責任は極めて重くなる。初犯であっても最高15年の自由刑、再犯であれば最高30年の自由刑が科される。
    なお、スケジュールⅢに含まれる物質の中でも「ガンマヒドロキシ酪酸(GHB)」については例外的に重い罰則が設定されており、死亡・重症時の最高刑は終身刑にまで及ぶ。

連邦法は刑事罰にとどまらず、軽微な違反者に対して金銭的制裁を通じて責任を問う「民事罰(Civil Penalty)」の制度も備えている。

  • 民事罰
    21 U.S.C. § 844aに基づき、個人使用目的の少量所持に対しては、最大1万ドルの民事罰が科される。

  • 付随的制裁
    薬物犯罪の有罪判決は、刑務所外での生活にも深刻な影響を及ぼす。
    連邦政府からの公的支援(学生ローン、公的住宅支援等)の受給資格が、初犯で最大1年、再犯で最大5年にわたり剥奪される可能性がある。さらに、医師や薬剤師といった専門職にあっては、麻薬取締局(DEA)登録の取り消しや州の免許停止など、職業的地位の喪失に直結する場合が多い。

Q8 日本の薬物政策への影響は?

不寛容政策を維持する日本の法的な壁

日本は薬物に対して伝統的に「ゼロ・トレランス(不寛容主義)」の姿勢を貫いており、薬物使用を公衆衛生上の問題ではなく、優先的に刑事罰の対象として扱ってきた。このアメリカの薬物政策の大転換が直ちに日本の大麻規制緩和へと繋がる可能性は低いと言わざるをえない。

実際、2024年12月に施行された大麻取締法の改正では、大麻を麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)上の「麻薬」として位置づけ、それまで罰則のなかった「使用」に対しても、所持や販売と同様に最高7年の拘禁刑という厳しい刑事罰を導入したばかりである。これは今回のアメリカの措置と比べれば実に7倍の重さである。政府は、他国における大麻の合法化や規制緩和の潮流に対して、明確に「懸念」を表明しているのが実態である。

国際的な科学的検証との乖離

しかしながらアメリカの再分類は、日本の政策が依拠する「科学的根拠」に対して強力な問いを突きつけることになる。

日本の既存の薬物乱用防止キャンペーンは、「一度でも使えば人生が破滅する」といった威嚇的な刑罰優先の薬物教育に重点を置いてきた。アメリカでスケジュールⅢへの移行が進み、大麻がケタミンやコデインなどと同様の「管理された医薬品」として標準化されていく中で、日本だけが従来の政策を頑なに維持し続けることは、国際的な科学コミュニティからの孤立を招く恐れがある。

国際移動に伴う「法的罠」の激化

実務面において懸念されるのは、国境を越える移動に伴う法的リスクの増大である。米国でスケジュールⅢとして「合法的に処方」された大麻製剤を、患者が治療継続のために日本へ持ち込もうとするケースが想定される。しかし、日本の法体系では、たとえ海外で適法に医師の処方箋を得たものであっても、大麻由来の製品を持ち込むことは厳格に禁止されている。

迫られる「刑事司法」から「医療」への視点変更

今後、アメリカ主導の再分類は、日本国内でも医療大麻の研究や、薬物依存症に対する「ハームリダクション(害の低減)」の議論を再燃させる触媒となりうる。政府はこれまで国連等においてハームリダクションの導入に反対してきたが、主要同盟国であるアメリカの重大な政策変更は、その外交的・政策的立場に再考を迫るものといえよう。

***

結論として、大麻に関するスケジュールⅢへの移行は、日本にとって「遠い国の出来事」ではない。そもそも、薬物問題を刑事法の優先事項として位置づけ、刑事罰によって薬禍を根絶するという日本の伝統的なアプローチは、戦後にアメリカの主導でその基本的な枠組みが作られたのである。今後日本には、この伝統的な厳罰主義を、世界の潮流、とりわけ科学的・医療的な現実とどのように折り合いをつけていくべきかという、重大な問題が突きつけられているのである。(了)

【注記】

本稿を執筆するに当たって以下のサイトを中心に複数のAIを使って情報の収集を行ったが、内容に関する最終的な責任はもちろん筆者にある。

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