世界を巻き込んだアメリカの「薬物戦争」とは何だったのか

1971年6月17日、ニクソン大統領(当時)は、薬物乱用を「アメリカ社会の公共の敵ナンバーワン」と位置づけ、これに「新たな全面攻撃」を行うことを宣言した。この「薬物戦争」は、わが国の薬物政策の根幹にも影響を与え続けており、薬物に対する社会的な規範意識、依存症者に対するスティグマ、そして治療体制の構造的な遅延といった、日本独自の文脈に深く刻み込まれていった。
園田寿 2025.10.26
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President Nixon Declares Drug Abuse "Public Enemy Number One"

President Nixon Declares Drug Abuse "Public Enemy Number One"

1.はじめに

「薬物戦争」(War on Drugs)とは、1970年代以降アメリカが主導してきた、違法薬物の生産・流通・使用を撲滅するための国際的な政策体系のことである。表向きは「公衆の健康と安全の保護」を掲げながらも、その実態は、対内的な刑罰権と対外的な軍事力とを総動員した社会統制の仕組みとして機能してきた。しかし、今日ではその実効性は懐疑的であり、「失敗した戦争」として否定的に総括されつつある。

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