世界はなぜ薬物を規制し続けるのか
世界が薬物を規制し続ける理由は極めて多層的である。しかし必要なことは、薬物問題を刑事法の優先問題として位置づける処罰中心のアプローチから、人びとの健康問題として捉え直すことであり、厳罰化よりも薬物の害をいかに低減し、治療へのアクセスを拡充するなど、個人の尊厳を優先する方向への転換である。
園田寿
2025.11.27
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目次
第1 序論
第2 公衆衛生と危害最小化の論理
2.1 他者危害の原理
2.2 依存症による「自由意志」の崩壊と市場の失敗
2.3 闇市場のリスク:不純物と「禁止の鉄則」
2.4 青少年保護と発達への影響
第3 社会的統制と犯罪抑止のパラドックス
3.1 薬物犯罪の因果関係と「薬物乱用仮説」
3.2 組織犯罪対策としての規制と経済的打撃
3.3 犯罪化の副作用:スティグマの形成と治療への障壁
3.4 刑事司法制度による新たなカーストの形成
第4 道徳的価値観とパターナリズム
4.1 「悪徳」としての薬物使用とリーガル・モラリズム
4.2 パターナリズム:国家による個人の保護
4.3 「選択的禁止」の矛盾:アルコール・タバコとの比較
第5 歴史的・イデオロギー的基盤と政治構造
5.1 文化的偏見と植民地主義の遺産
5.2 「薬物戦争」の政治的利用と人種的マイノリティの統制
5.3 科学とイデオロギーの対立:医療利用への阻害
第6 結論