薬物なき世界の幻想
国際的な薬物統制システムは、植民地支配、社会的緊張、人種差別、医学的理解の欠如という100年以上前の概念的枠組みに基づいており、現代社会の変化に対応しきれていない。公衆衛生の保護を優先し、科学的根拠に基づいた政策立案を行うこと、そして「薬物のない世界は実現不可能である」という現実を受け入れることが、今後の改革の鍵となる。
園田寿
2025.06.25
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はじめに
現在まで続く国際的な薬物取締制度の基礎は、19世紀末から20世紀初頭にかけて形成された。当時は列強諸国が中国におけるアヘン禍の衝撃を引きずっていた時期であり、薬物問題が国際社会全体で取り組むべき喫緊の課題であると強く認識されていたのであった。「薬物のない世界」を普遍的かつ究極の目標として掲げ、ケシやコカ、大麻などの薬物の栽培、生産、流通、消費を地球上から根絶させることが目指された。しかし、この禁止主義は現在多くの課題に直面しており、その根本的な問題性が問い直されているのである。